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2026.10.10

【パネルディスカッション報告】地域にある資源をつなぎ、未来へ――鳴子温泉地域の持続可能な地域づくりを考える

観光、湯治文化、空き家活用、地域経済の循環――異なる立場の登壇者が語った、地域再生の現在地とこれから

2025年10月8日、宮城県大崎市鳴子公民館において、地域づくりをテーマとしたパネルディスカッションが開催されました。

今回のパネルディスカッションには、仙台空港アクセス鉄道株式会社代表取締役社長の千葉氏、鳴子温泉地域で湯治宿旅館大沼を営む大沼氏、岩出山地域で建築設計や地域づくりに取り組む西村氏、株式会社SENBIZの狩野氏、そしてガイアグループ代表の相澤国弘が登壇しました。

観光政策、温泉文化、建築・空き家活用、地域事業など、それぞれ異なる立場から地域に関わる登壇者が集まり、鳴子温泉地域や大崎市が抱える課題、地域にある資源を生かす方法、事業者同士が連携して地域全体の価値を高める仕組みについて意見を交わしました。

議論を通じて浮かび上がったのは、地域に新しい施設や事業を増やすことだけではなく、すでに地域にある資源、人材、文化、事業者をつなぎ、地域全体に利益が循環する仕組みをつくることの重要性です。

■ 商店街再生に必要なのは、時代の変化への対応

仙台空港アクセス鉄道株式会社代表取締役社長の千葉氏は、宮城県庁時代に商店街の再生や観光振興に携わった経験を踏まえ、地域活性化において「時代の変化に対応すること」が重要だと指摘しました。

商店街の衰退については、大型商業施設の進出だけを理由とするのではなく、消費者のニーズや生活様式の変化に対応できなかったことにも目を向ける必要があります。

これからの商店街再生には、地域の若い世代や新たな事業に挑戦する人々が活躍できる環境を整えることが欠かせません。

たとえば、地域でカフェを開きたい、新しいサービスを提供したいという人が挑戦できる場をつくること。空き店舗や不動産を新しい担い手へ引き継ぐ仕組みを整えること。地域内外の人々が定期的に交流し、アイデアを共有する機会を設けること。

こうした取り組みが積み重なることで、商店街に新たな店舗や人の流れが生まれ、地域の魅力が高まっていく可能性があります。

■ 観光客数の増加だけでは、地域経済は豊かにならない

千葉氏は、観光政策の成果を何によって測るべきかという問題についても語りました。

観光入込客数が増加しても、宿泊や飲食などの地域経済が必ずしも成長するとは限りません。観光客が増え、現場が忙しくなっても、事業者の収益が増えなければ、地域の持続可能性にはつながりにくいからです。

重要なのは、観光客の人数だけではなく、地域でどれだけ消費が生まれたのか、宿泊につながったのか、地域の事業者の収益や雇用に結びついたのかを見ていくことです。

観光客数を増やすことから、観光消費や宿泊者数を重視することへ。

こうした視点への転換は、鳴子温泉地域をはじめとする観光地が今後考えるべき重要なテーマとなりました。

■ 鳴子温泉が受け継いできた湯治文化

鳴子温泉地域で長年にわたり湯治宿を営む大沼氏は、地域の歴史と湯治文化の変化について語りました。

かつて鳴子温泉には、鉄道を利用して多くの湯治客が訪れ、温泉街全体が活気に満ちていた時代がありました。宿泊客が長期間滞在し、地域の旅館や商店を利用することで、温泉街全体に人の流れと経済の循環が生まれていました。

しかし、生活様式や旅行形態の変化に伴い、従来の湯治文化を取り巻く環境は大きく変化しています。

大沼氏は、温泉が人々の心と体を癒やす場であることを日々実感していると述べ、湯治文化を次の世代へ残していきたいという思いを語りました。

温泉を単なる宿泊施設の設備として捉えるのではなく、人々が健康を取り戻し、心身を整え、新たな交流を生み出す場として捉えること。

その理念に共感する人々と協力しながら、湯治文化を現代の暮らしに合った形で継承していくことが重要だと語りました。

■ 岩出山で進む、空き家・空き店舗の活用

大崎市岩出山地域で建築設計や地域づくりに取り組む西村氏からは、空き家を活用した宿泊事業と、商店街のエリアリノベーションについて紹介がありました。

西村氏は岩出山出身で、大学進学を機に関東へ移り、約20年間地元を離れていました。その後、建築設計を主な事業とする会社を立ち上げ、2019年に大崎市へUターン。地域の木材や技術を生かした建築設計に取り組む一方、空き家を活用した宿泊事業にも挑戦してきました。

その中で見えてきたのは、宿泊施設をつくるだけでは、必ずしも地域経済への十分な波及効果が生まれないという課題です。

旅行者が夜に到着し、翌朝すぐに次の観光地へ向かうだけでは、宿泊先の周辺で消費や交流が生まれにくい場合があります。

そこで、宿泊施設だけでなく、地域そのものを訪問の目的地にすることが重要になります。

岩出山では、荒町商店街に残る古い建物や空き店舗を活用し、アート展示やまち歩きなどを通じて、新たな人の流れを生み出す取り組みが進められています。

学生や地域住民も活動に関わることで、少しずつ地域に活気が生まれ、住民の意識にも変化が現れていることが紹介されました。

建物を単に再利用するのではなく、そこに新しい役割を与え、人々の活動と結びつける。

空き家・空き店舗の活用は、建物の再生にとどまらず、地域の交流や新たな事業を生み出すきっかけにもなります。

■ 地域の外から関わる人が、地域の可能性を広げる

株式会社千住の狩野氏からは、地域出身者や地域外に暮らす人々が、継続的に地域に関わることの意義について意見が述べられました。

狩野氏は古川出身で、現在は関東に暮らしながらも、大崎市や岩出山地域の取り組みに関わっています。パネルディスカッションでは、地域を訪れ、地元の人々と交流する中で感じた地域の魅力や、外部から関わることの可能性について語りました。

現在は地域を離れて暮らしていても、出身地への思いを持ち、地域の取り組みに参加したり、外からの視点を提供したりする人々がいます。

地域に住んでいる人だけでなく、地域を訪れる人、地域にルーツを持つ人、地域の可能性に関心を持つ人が、それぞれの立場から関わることで、新しいつながりが生まれます。

外部からの視点は、地域の人々が見慣れている資源や風景の価値を、改めて見つめ直すきっかけにもなります。

地域内の担い手と、地域外から関わる人々が協力することで、地域の魅力を再発見し、新たな事業や交流につなげられる可能性があります。

■ 既存事業者との共存共栄を実現するには

ガイアグループ代表の相澤国弘は、地域の事業者同士が協力し合う仕組みについて、蔵王での経験を紹介しました。

新たな宿泊事業を始める際に重視したのは、既存の温泉旅館やホテルとの関係です。

新しい宿泊施設ができることで、既存の事業者から顧客を奪うのではないかという懸念が生まれる可能性があります。

そこで相澤は、事業開始前に旅館組合の関係者や主要な旅館・ホテルの経営者に対して、自らの考えを説明しました。

目指していたのは、従来の旅館やホテルが十分に取り込めていなかった新しい宿泊需要を地域へ呼び込み、その宿泊客に温泉街の飲食店や入浴施設などを利用してもらうことでした。

新しい事業者と既存の事業者が競い合うだけではなく、それぞれの特徴を生かして地域全体の魅力を高める。

そのためには、事業を始める前から地域の関係者と対話し、目的や役割を共有することが重要です。

相澤は、地域に新たなプレイヤーが加わる場合でも、既存の事業者と対立するのではなく、地域全体の需要を広げる役割を担うことが大切だと語りました。

■ 地域全体のパイを大きくする

千葉氏は、草津温泉や黒川温泉などの事例に触れながら、地域の事業者が個別に顧客を囲い込むのではなく、協力して温泉街全体の魅力を高めることの重要性を語りました。

宿泊客が旅館の中だけで過ごすのではなく、地域の飲食店や商店、共同浴場などを利用することで、温泉街全体に人の流れが生まれます。

地域全体の魅力が高まれば、結果として個々の宿泊施設や店舗の競争力も高まります。

縮小する市場の中で限られた顧客を奪い合うのではなく、地域全体で新しい需要を生み出す。

そのためには、事業者同士が一定の利益を分かち合い、地域全体の価値を高めるという視点が欠かせません。

「自分の施設だけをよくする」のではなく、「地域全体をよくすることで、自分の事業にも利益が戻ってくる」という考え方です。

■ 地域の利益を、地域の未来へ還元する

相澤は、地域の資源を活用して生まれた利益を、地域の人々に還元することの重要性についても語りました。

地域の事業者が経営主体となり、地域の中に売上や利益が残る仕組みをつくる。

外部から関わる企業や専門家は、必要なノウハウや運営技術を提供する。

そして、事業によって生まれた利益を、地域の公園整備や商店街の新たな取り組み、移住者による起業など、次の地域づくりへ再投資する。

こうした循環が続けば、新しい事業や雇用が生まれ、地域の持続可能性が高まっていきます。

また、地域の利益を受け取るのは、既存の事業者だけではありません。

高齢者や障がいのある方々など、これまで地域の経済活動に参加する機会が限られていた人々にも、仕事や役割が生まれる仕組みをつくることが重要です。

地域の資源を活用して得た利益を、地域の暮らしや人々の役割づくりに還元する。

それが、地域経済を一時的な消費で終わらせず、持続的な地域づくりへつなげる方法です。

■ 今いるプレイヤーから始める地域づくり

パネルディスカッションでは、新しい事業者や大規模な外部投資を待つだけではなく、現在地域で活動している人々の力によっても、新しい地域づくりを始められるという意見が示されました。

鳴子温泉には、豊富な温泉資源、長い歴史を持つ湯治文化、地域に根差した宿泊施設や商店があります。

大崎市全体に目を向ければ、岩出山の歴史的な商店街、地域の農業、道の駅、空き家や空き店舗など、さまざまな資源が存在します。

大切なのは、これらを個別の資源として捉えるのではなく、地域全体の価値を高める仕組みとして結びつけることです。

地元の事業者が主体となり、必要に応じて外部の専門家や企業の知見を取り入れる。

そして、生まれた利益を地域に残し、次の事業や人材育成へとつなげていく。

地域にすでにある資源と担い手を生かすことが、地域再生の出発点になります。

■ 一人の力ではなく、地域全体で取り組む

登壇者からは、地域の課題を一人のリーダーや一つの事業者だけで解決することは難しいという認識も共有されました。

地域の課題は複雑であり、観光、福祉、商業、交通、空き家、雇用など、さまざまな分野が関係しています。

だからこそ、地域の人々が共通の未来像を持ち、それぞれの得意分野や経験を生かして役割を担うことが重要です。

行政・観光政策に携わる千葉氏、湯治文化を守る大沼氏、空き家の再生に挑戦する西村氏、地域外から新たな視点を提供する狩野氏、地域事業者との共存共栄を実践してきた相澤国弘。

異なる立場の登壇者が経験や課題を共有し、互いの取り組みを結びつけること自体が、地域づくりの重要な一歩となります。

誰か一人が地域を変えるのではなく、地域に関わる一人ひとりが未来をつくる。

今回のパネルディスカッションは、そのことを確認する機会となりました。

■ 鳴子温泉地域のこれから

今回の議論を通じて、鳴子温泉地域が持つ多様な可能性が改めて示されました。

湯治文化や温泉資源を次の世代へつなぐこと。

空き家や空き店舗を活用し、新しい事業や交流を生み出すこと。

観光客数だけではなく、地域で生まれる消費や雇用、事業者の収益を重視すること。

既存事業者と新たな担い手が協力し、地域全体の魅力を高めること。

そして、地域で生まれた利益を、地域の暮らしや次の事業へ還元すること。

これらを実現するためには、地域の歴史や文化、住民の思いを尊重しながら、その土地にふさわしい仕組みをつくる必要があります。

他地域の事例をそのまま取り入れるのではなく、鳴子温泉や大崎市にある資源と人材を生かし、地域の関係者が対話を重ねながら進めていくことが重要です。

■ まとめ――地域にあるものをつなぎ、未来へ

今回のパネルディスカッションでは、地域再生に必要なものが、必ずしも新しい施設や大規模な投資だけではないことが語られました。

地域にすでに存在する人、建物、文化、自然、産業。

それらをつなぎ、地域全体に利益が循環する仕組みをつくること。

そして、その仕組みの中心に、地域で暮らす人々の幸せと生きがいを据えること。

「ないものを探すのではなく、あるものをつなぐ」。

この考え方は、鳴子温泉地域のこれからを考えるうえで、大きな示唆を与えてくれます。

ガイアグループは、相澤国弘がパネルディスカッションで語った地域づくりの考え方を軸に、今回の議論で共有された課題や可能性を踏まえ、地域の皆さまと対話を重ねながら、それぞれの地域が持つ魅力と可能性を生かした持続可能な地域づくりに取り組んでまいります。

パネルディスカッション開催概要

開催日: 2025年10月8日

開催地: 宮城県大崎市鳴子公民館

内容: パネルディスカッション

登壇者:

  • 千葉氏(仙台空港アクセス鉄道株式会社代表取締役社長)
  • 大沼氏(鳴子温泉地域・湯治宿旅館大沼経営)
  • 西村氏(岩出山地域・建築設計、地域づくり)
  • 狩野氏(株式会社SENBIZ)
  • 相澤国弘(ガイアグループ代表)

主な討議テーマ: 地域再生、観光振興、湯治文化の継承、空き家・空き店舗の活用、地域経済の循環、観光と福祉の融合、既存事業者との共存共栄、地域外からの関わり、移住・定住

本記事について

本記事は、2025年10月8日に開催されたパネルディスカッションの記録をもとに、登壇者の発言と議論の内容を整理し、鳴子温泉地域および大崎市における地域づくりの課題と可能性を紹介する報告として編集したものです。

登壇者の発言については、議論の趣旨を尊重しながら、読みやすさを考慮して要約・再構成しています。